【出典:日経プラス10】
民法は明治に作成された法律ですが少しずつ時代に合わせて改正されてきました。相続に関しては今まで40年間変わらなかった法律です。
法律の条文の説明からはじめると少し難しい内容になってきますので、変更になった部分をわかりやすく説明していきます。
- 配偶者居住権
- 遺産分割
- 遺留分制度
- 相続の効力
- 特別寄与料
- 遺言制度
相続法は段階的に施行されていきますが、大きく変更になった部分は、①介護などに貢献した人への特別寄与(現金請求)や、②故人の預金の引き出しが可能になった点、③遺言の簡易化です。
とは言え、相続は配偶者やきょうだいが相手になるものです。法律を手にして自分の権利を主張するより、事前に相手方と調整することが重要だと言えます。
すでに相続でトラブルになっている場合は弁護士などの専門家にアドバイスをしてもらいましょう。相続の知識の一環としてご理解いただけますと幸いです。
改正相続法は配偶者に優しくなった
説明は簡単にしますが、2019年の相続法改正では配偶者(妻)へ優しくなった点です。
配偶者居住権の新設や、20年以上の夫婦間の居住用不動産の贈与に関する優遇が認められることになりました。内容は少し複雑ですが、簡単に説明すると妻への配慮が大きくなったという点です。
自宅が故人の持ち物であった場合、不動産は当然のように資産扱いになるので遺産分割をすると配偶者は自宅を売却して自分の遺産の取り分だけしか認められていませんでした。
仮に不動産の価値が2,000万、現金を2,500万円残して相続人が逝去した場合。(被相続人は妻と息子の2人)
息子がすでに独立していて自宅を持っていれば自宅(実家)は妻が相続することになりますが、妻はすでに2,000万円相続しているので、息子が現金の2,000万円を相続するようになります。
残りの500万円を1/2で相続するのが今までの相続法でした。現金だけに焦点を当てると、妻は250万円、息子は2,250万円相続するようになります。
住宅の環境は妻、息子ともに変わらないのに現金だけ見ると10倍近く差が生じていることが分かります。住宅を売却して賃貸住宅に住むというのも手段の1つでしたが、今回の改正で配偶者居住権は、所有とは別に住む権利を取得できるようになりました。
今回の改正で現金の相続財産を分割した後で、妻は実家に住み続けることが可能になりました。
この場合、自宅の所有権は息子に負担付所有権として相続されます。
相続改正の3つのポイント
【出典:日経プラス10】
今回の改正で大きく変わる部分は相続法は配偶者に優しくなった点と、介護などに貢献した人への特別寄与(現金請求)や、故人の預金の引き出しが可能になった部分です。
ここでは新設された部分をわかりやすく説明していきます。
- 故人の預金の仮払いが可能になった
- 介護の特別寄与料を支払えるようになった
- 遺言の作成が簡単になった
上記3点を詳しく確認していきます。
①故人の預金を分割前に引き出せるようになった
財産分与の考え方と別に、今まではお葬式の費用は喪主などが立て替えておいて相続後に遺産から返金してもらうことが一般的でした。
相続人の死後、預金が一時凍結されることを知っている被相続人は『事前にお金を引き出しておこう』と考える方もいましたが、多くの方は口座凍結の事実を知らずに葬儀費用を一時立て替えておくケースが多かったのです。
被相続人が現金を持っていれば全く問題ありませんが、経済格差は広がっていて、葬儀費用を一時的に立て替えるために借金をしたということもあり、被相続人の間でのトラブルが発生する事案です。
- 預金額×法廷相続人×1/3
- 1金融機関あたり150万円まで
遺産相続前でも現金の引き出しが可能になりました。相続前に現金が必要になる理由の多くは葬儀費用でしょう。1金融機関で150万円まで引き出しが可能なので葬儀費用の立て替えは発生しなくなりそうです。
②介護の特別寄与料が制定された
上記のようなケースで、長男夫婦の妻が夫の母を介護した場合に、財産分与と別に介護にかかった費用を遺産から相続できるということも新設されました。
今までは、被相続人同士の話し合いで『介護した長男の妻にも配慮しよう』という家庭も多かったですが、介護した本人が受け取れるように法律として制定されました。
ただし注意点があります。遺産の権利者は自分の夫だったり、次男夫婦と肉親に当たります。親切心や責任感から介護をしたつもりでも、相続で嫌な思いをしてしまうこともあります。
請求者は肉親なので事前に請求金額や実費としてかかった金額を説明しておく必要があります。
施行は2020年7月に予定されています。介護の特別寄与料が新設されたことで上記のように、介護にかかった貢献分を遺産の中から現金請求可能になりました。
730万円というと大きな金額になりますが、日当で2,000円とパート勤務をする方が大きな稼ぎにはなります。繰り返しになりますが、法律的に請求権はあるものの、請求者は肉親になるので、事前に日当2,000円で介護した日数分(年数)を請求するということを伝えておいた方が賢明です。
いくら法律上の権利があっても、事前通告しなければトラブルになる部分です。
①介護施設に入所させるより自宅で介護した方が費用が抑えられること
②家族だから自宅で介護したい
このような点を被相続人に説明して、承諾を事前に得ておくことが重要だと考えます。
法律はあくまでトラブルになったときの最後の砦だと考えましょう。事前に介護について取り決めをしておけば何の問題も起こりませんし、不要なトラブルは避けましょう。
日経プラス10で報道された内容でも兄弟はひらがな表記されていました。姉妹の可能性もあるためです。相続の利害関係者は肉親なので精神的に苦痛に感じる方も多いはずです。
いざ問題が起こる前に事前の協議が重要です。
できることなら弁護士や裁判所のお世話にならずに円満に解消させたいものです。
③遺言の保管が簡単になった
上記は税理士法人レガシィが独自に調査したものですが、遺言なしのケースが90%を超えていて、ほとんどのケースで遺言が残っていないことがわかります。
しかも、財産相続でトラブルになるケースは財産が多い家より少ない家だそうで、財産が5,000万円の家庭で全体の75%、1,000万円以下の家庭で35%が相続トラブルに見舞われています。
考えてみれば理由も明確ですが、当然ながら資産家の方が相続で揉めることが多そうですが、顧問弁護士や顧問税理士、会計士などの専門家がそばにいるケースも多く、事前に準備されていることも多いようです。
相続でトラブルになるのは一般家庭が多いようですが、理由としては以下のとおりです。
- 事前の遺言がない
- 遺言の残し方がわからない
- 財産の取り分に納得できない
遺言は相続人の意思です。正式な遺言が残っていれば故人の遺志となりますが、例えば長男家族がきょうだいに相談せずに遺言を作成して、後で納得のいかない次男家族が弁護士を立てて異議申し立てをしたとなればドロドロな相続トラブルです。
しかも遺言は、遺言者がすべて手書きする必要があったり、相続を専門にしている弁護士に相談したり、遺言書を正式な方法で保管しておく必要がありました。
これが一般家庭には敷居の高い話になっていて『うちには関係ないだろう』と思っていると大変なことになってしまった・・・。ということも考えられます。
最近はエンディングノートも話題になり、本人が自発的に財産の有無や有価証券などを教えてくれれば助かりますが、被相続人からすれば『遺言は本人の死を意味する』という点から言いだしにくいという点もあります。
エンディングノートを開始することにより、家族間のトラブルが防げる可能性もあります。詳しい内容はこちらの記事を参考にしてください。
【参考:【エンディングノートの書き方】希望を伝えるために日記として残す】
遺言の適齢期は70歳前後と言われていて、この年齢を超えてくると早い人だと認知症がはじまる可能性もあります。
相続改正法では、法務局で自筆の遺言書類の保管制度が新設されたことです。
また、今までの遺言書は全て手書きの必要がありましたが、財産目録はパソコン(主にワードかエクセル)で作成可能になった点です。プリントアウトしたものに署名、押印すれば遺言書として認められます。
今までは被相続人も遺言には無頓着で、遺品整理をしていたら現金が出てきたとか、廃品回収したものの中から現金が出てきたという話もあります。
遺言書は何度でも修正することができるので、親とのコミュニケーションを含めて、楽しんで親子で遺言書を作ってみるのも良いかもしれません。
認知症になってからでは遅いのです。
改正相続法まとめ
2019年から段階的に施行される改正相続法の大きなポイントは以下のとおりです。
- 配偶者に配慮した相続を実現
- 故人の一部の預金の引き出しを可能にした
- 介護に携わった人への支払い
- 遺言書を残しやすくした
被相続人同士のコミュニケーションがあれば、本来トラブルにならないのが相続です。相続トラブルは金銭的なものもあれば、感情による衝突も問題になっています。
本来、法律がここまで入り込む必要もないと思いますが、このような基本的なことがトラブルの原因になっているのも事実です。
今までは面倒にも思えた遺言書の作成も簡易化されたことで一定の知識があれば専門家でなくても書面を作成できるようになっています。
エンディングノートも話題になっていることですし、70歳を過ぎたらエンディングノートを作成する、遺言書を作成してみるなどイベントと考えてみると楽しいかもしれません。